信じていたものに裏切られる話

近所に、不味いと評判のラーメン屋がある。

僕は、既に怖いもの見たさで経験している。感想としては「普通に不味い。」
その時頼んだのは「ラーメン餃子セット」。
セットで350円という驚異的コストパフォーマンスなのだが、普通に不味い。
9段階で言ったら下の上くらい、普通に不味い。

この店の話をどこかで聞きつけた同僚の翔くんが行きたいと言い出したので、2人で行ってきた。


久々に訪れた店内。
コストパフォーマンスの良さからか、近所の学生が多く見られる。
本棚には無造作に詰め込まれた漫画本。順番も何もない。
いつのものかわからないジャンプとマガジンが1冊づつある。


大体、この店を勧めてくる人はあるメニューを推してくる。
500円の「唐揚げ定食」だ。

皆さんお気付きだろうが、彼らの言う「唐揚げ定食おいしいよー」には少なからずネタふりの要素が含まれているのだ。
つまり、熱湯風呂を前にした上島竜平の「押すなよ!絶対押すなよ!」と同じメソッドである。
そのようなネタふりを受けたからには行くしかあるまい!行かずして何が日本男児か!!!

というわけで、今回は「唐揚げ定食」を注文することにした。
翔くんも同じものを注文していた。


注文を取りに来るのが50代くらいのおばちゃんなのだが、彼女が非常に癖がある。
普通、食べ物屋で商品が不味かったら潰れそうなものなのだが、この店のフリークは往々にして彼女のファンなのである。

特徴としては、非常に愛想が悪い。悪いどころの騒ぎではなく、愛想が皆無なのだ。
入店時に「いらっしゃいませ」というだけで、水を持ってくるときも何も言わないし、注文も聞きにこない。
注文をしても、繰り返し確認なんか絶対しない。

そんな奇抜な接客態度から、妙なファンが付いている……らしい。


注文をしてから、少しして、おばちゃんが業務用みたいな巨大なケチャップとマヨネーズを持ってきた。
何も言わないで置いていく。すごい!

次に、おばちゃんが持ってきたのは、何に使うのかわからない茶碗2つ。
中には何も入っていないし、もちろんおばちゃんはだんまりなので、何に使うのかわからない。

そのあとで、茶碗に装われた山盛りのご飯がやってくる。普通に量が多い。

そして、最後にラーメンを入れるような大きなどんぶりに山のように唐揚げが盛られてくる。
千切りのキャベツと、なぜかさくらんぼが1つ乗っていて見た目も綺麗だ。

子供の頃に夢見た山のような唐揚げに、正直、僕は心が躍っていた。
いつかおなかいっぱい唐揚げをたべてみたい!それが僕の子供の頃の夢であった。

僕の人生の中で、唐揚げはいつだって輝いていた!!!
それが、この数分後に絶望に生まれ変わるなんてこのときの僕は思いもしなかった。

(・・・なんてのは嘘で、若干のいやな予感はしていた。だって熱湯風呂なんでしょ?)

予感は、まさに的中する。 まず唐揚げが不味いのだ。

もう、何か前提条件的なものが破綻してしまってしまった。
何が不味いって、肉に下味がまったく付いていない。塩気も無ければ、何も無い。鶏肉の味しかしない。
さっきの謎の茶碗にマヨネーズを入れて(茶碗とマヨネーズの使い方はたぶんこれしかないと思う。)それにつけて食べるが全然合わない。
あと、1個1個がでかい。1個を5口くらいで食べる感じ。
味が無いくせに妙にジューシーで、一口食べると熱い油が飛び出して口の中を火傷しかける。

あと、なんか、マヨネーズ自体もなんだか変なの。
傷んでるわけじゃ無さそうだけど、ふつうのより硬い……?
角が立つホイップクリームくらいのソリッド感。

衣は唐揚げっぽい味がするんだけど、大部分を占める肉の部分が鶏肉の味しかしないので、延々揚げただけの鶏肉を食べることになる。
前述したように、どんぶりに山のように唐揚げが乗っているので、食べても食べても減らない。

唐揚げが乗ったどんぶりが最後かと思いきや、まだ続きがあった。
最後におばちゃんが持ってきたのはスープと漬物だ。
スープは熱くて、火傷気味の口ではなかなか飲めない。冷ましてから飲むことにする。
漬物は、千切りにされたたくあんが小皿に申し訳程度に乗っている。

量が多すぎて、途中からもう鶏肉の味すら気持ち悪くなる。
薄味のそれでは、ご飯も進まない。たくあんの千切りをつまみにご飯を食べる。
というか、ごはんも多くて終わりが見えない。
冷めたスープを飲んでみると、冗談みたいな中華あじの味がした。
もういっそ、鶏肉の味がしなければ美味しく感じる。すごい!

千切りたくあんとスープに助けられ、ごはんを完食。
唐揚げはまだ残っている。

食卓で唐揚げが残ってたらもう狂喜乱舞しながらかぶりつくのが世の常であるはずなのだ。



ふと蘇る、幼き日の記憶。

小学生のときに行った遠足。
偶然にも行動班が一緒だった憧れのあの子とドキドキしながら食べたお弁当。
彼女が僕のお弁当に入っていたタコさんウィンナーを欲しがったから、食べていいよと言って1本あげたら、そのお返しに彼女は自分のお弁当箱の唐揚げを1つくれたっけ。
ちょっと一工夫された海苔風味の唐揚げだった。
僕は今でもあの味を忘れない。
あぁ、おいしかったなぁ―――。




唐揚げはいつだって味方であり、希望に満ち溢れていた。
唐揚げは僕のジャスティスでありジェネシスであった。

今日、この日を迎えるまで僕は、まさか唐揚げに裏切られるなんてことが起こるとは思ってもいなかった。

大事なことなので、フォントを大きくしてもう一回言います。

唐揚げはいつだって僕の味方であり、希望に満ち溢れていた!!!


目前には唐揚げが3個。(さっきも言ったけど、1個5口くらいの大きさ。)

僕の満腹中枢は既に警鐘を鳴らしている。
こんなに胃がモノで満たされるというのは、久しく感じていなかった。

唐揚げ!唐揚げなのに、食べる気が起きない!!!

マヨネーズは試したがケチャップはまだ試していなかったので、ケチャップをかけて食べてみる。

ひとっつも合わない!!!!!
ケチャップ、なんか酸っぱいし。

あまりに合わなくてもうなんかどうでも良くなってしまい、勢いだけで食べた。

モノを食べると言うのはこんなにも疲労するものなのか。新しい発見だ。
不味い食べ物を大量に食べるのは、一種の拷問であった。

見ると対面に座る翔くんも意気消沈している。
それこそ、食べながら小学校の頃の遠足の甘酸っぱい思い出とかに浸っているに違いない。



翔くんが食べ終えるのを待って、会計を済まし、店の外へ。

会計時も、おばちゃんは「500円」くらいしか喋らない。
店から出るときに「ありがとう」って言われた。
「ありがとうございます」じゃないのが、ここのおばちゃんのアイデンティティーなのだ。



店の外に出て、歩きながら二人とも自然に笑い出していた。

翔:いや、不味いってわかってて行ったのに、ここまでテンション下がるとは思わなかったな。

僕:それが、この店のすばらしいところなんだよ。

翔:なんで、中華料理屋なのに厨房から何も音が聞こえないの?

僕:わかんねー!どうやって唐揚げ揚げてんだろう!

翔:いや、すごいわ。予想以上だったぜ。とてもじゃないが、ツッコミきれない。

僕:『どこからつっこんでいいかわからない』ってこういうことなんだな(遠い目)

翔:唐揚げ……味しなかったな。(遠い目)

僕:でかいし、熱いしな。(遠い目)

翔:おばちゃん、ロボットみたいだしな。

僕:本当、最低限しか喋らないよなぁ。

翔:「いらっしゃいませ」と「500円」と「ありがとう」だけ。

僕:こんど、ラーメン食べに行こうよ。

翔:ラーメンはどうなの?

僕:200円で、普通に不味い。薄いナルトとチャーシューと、あといんげんが1本乗ってる。

翔:いんげん!!!!!!!!!!!!



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